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今月のメッセージ 2017

毎月の教会新聞に掲載している、司牧チームによる「巻頭言」の2017年のバックナンバーです。

2017年10月号 掲載

心の中の庵(いおり)

竹延 真治 神父

 8月の終わりに休暇をもらって、北アルプスを一人で縦走した。テントに寝具、炊事道具に4日分の食糧を詰め込むとリュックサックは20㌔を超えた。

 富山県の折立(おりたて)という路線バスの終点から標高2300メートルまで登り、初日は薬師峠という水の豊富なキャンプ地にテントを張って満天の星を仰いだ。

 翌日は早朝3時半に起床、朝5時から歩き始めたが、昨日とは一転して天気が崩れ、まもなく雨が降り出してきた。稜線では強風にも見舞われ、目指す黒部五郎岳山頂直下では雷も咆哮(ほうこう)を上げてきた。残念だが、恐怖と疲労でこの山への登頂は断念。一昨年も雨と寒さと空腹でこの山に近づくこともできなかったが、今年も頂上は踏めなかった。わたしにとってこの山はまるで神が宿られる神秘の山だ。巻き道(まきみち)※1 に入りカール(圏谷(けんこく))※2 に残っている雪渓と巨石を縫うように進み土砂降りの雨の中、コースタイムの倍の13時間もかかって山小屋に避難した。

 三日目も朝から強い雨が降りしきる。雨具を着て山小屋を出た。急坂を登り直して富山・長野・岐阜の三県にまたがる三俣蓮華岳(みつまたれんげたけ)※3 という山の頂を踏むも、視界はほとんどゼロ、標高2840メートルの山頂で吹き付ける雨と風に体は凍えそうになり、また巻き道(まきみち)※1 を通って双六岳(すごろくだけ)※4 のキャンプ地をめざす。幸いにも夕方の3時間だけは雨が止み、テントを設営することができた。暖かい食事を作り、隣接する山小屋で買った缶ビールを飲み一息つく。しかしながら、夜半からの強風と強い雨でテントは吹き飛ばされそうになり、浸水がはじまった。夜が明けるのを待ってテントをたたみ、水を吸ってずっしりと重くなった備品をリュックに詰め込み、山を下る。体重95㌔とリュックサックの重みが膝を傷めないように恐る恐る下山すると、やはり普通の人の倍近くも時間がかかってしまい、岐阜県の新穂高温泉バス停に着いたのは17時55分発の最終バスが出る5分前だった。

壮大な北アルプス (※写真はイメージです)

雪渓の残るカール(圏谷) (※写真はイメージです)

花で有名な、三俣蓮華岳と双六岳の間のカール(圏谷)

 (※写真はイメージです)

 この4日間の出来事をわたしは心の中の庵(いおり)にしっかりと納めた。日常に戻り、嫌なできごとや無味乾燥なできごとに遭遇した時に、わたしは心の中の庵を訪れる。庵の中に入ると、霧の中の北アルプスの稜線を喘ぎながら歩いたあの瞬間がよみがえってくる。この庵にはあの雪渓の脇で出会った雷鳥もいるが、4日間ともにいてくださった神さまもおわすはずだ。

※1)巻き道(まきみち)… 通行困難な岩場や滝などを避けて迂回するための道

※2)カール/圏谷(けんこく) … 氷河の侵食でできた広い椀状の谷

※3)三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ)… 飛騨山脈(立山連峰、後立山連峰、穂高連峰)、通称・北アルプスにあり、富山県・長野県・岐阜県にまたがる、標高2,841mの山。山域は中部山岳国立公園に指定されている。「立山七十二峰」「日本三百名山」のひとつ。

​※4)双六岳(すごろくだけ)… 飛騨山脈の裏銀座の主稜線に位置し、長野県・岐阜県にまたがる、標高2,860 mの山。山域は中部山岳国立公園に指定されている。「花の百名山」「ぎふ百山」「新高山市100景」のひとつ。

2017年11月号 掲載

死者の月に ―神の招きである旅立ちを―

Sr. 高橋 由美子

 教会の仕事に携わるようになり、多くの方の旅立ちに関わらせていただきました。通夜、葬儀はもとより、それまでのご病床での出来事など貴重な時を家族の皆様と共有させていただきます。ありがたいもので、このつながりは深い絆となり、教区行事や、何かの折に偶然出会っても、深い信仰で結ばれていることを感じることができます。ですから、死者の月になると、故人やご家族のためにお祈りをし、その上、わたしのために神さまに取り次いでほしいと欲張りなお願いをしています。

墓石に刻まれた十字架(※写真はイメージです)

 ところで、数年前に見事な身辺整理をして旅立たれた方の話をA氏から聞きましたので紹介します。A氏は「入院中の患者の荷物の中にあなた宛ての遺言書がある」と病院から連絡を受けました。

その遺言書には、次のように書かれていました。

一、葬儀は○○教会で密葬、簡素に行ってください。尚、葬儀の事前の手続きもよろしくお願いいたします。 
一、納骨先、○○教会内「○○番」 
一、身辺整理はK氏に依頼していますが、残存物については業者に依頼してください 
一、右、経費につきましては、ご連絡、ご指名の通り「簡易保険金・受領」を以って之に充当、ご決済下さい。 署名、捺印

 そして、もう1通、身辺整理を依頼したK氏宛の遺言書の写しがありました。

 下記の通り身辺整理をお願いします。
一、カトリックの葬儀をA氏に依頼していること。 
一、社会保険事務所(年金手帳の返却) 
一、市営住宅局(賃貸契約の廃止) 
一、警察署(免許証の返却) なお、手続きに必要な諸経費は預金からご使用いただき…
と身辺整理をお願いされた方への配慮が記されていました。


 A氏によると、10年前に保険金の受取人になって欲しいと突然の依頼があり、これまでに一度だけ名義変更の連絡があったが、その後、連絡がなかったので半信半疑でした。病院の話では、亡くなる1ヶ月前に入院、身辺整理をお願いしたK氏は近所の酒屋の店主、葬儀を依頼したA氏はカトリック者としての面識のみでした。
 他人に迷惑をかけない旅立ちですが、教会共同体はもう少し関わらせていただけなかったのかという気持ちが残りました。

餌になる ―「幼子」と「タニシ」―

2017年12月号 掲載
昌川 信雄 神父

昌川神父 による 原版(絵画と組版)

かつて秋日和のある日、ベランダの植木鉢をずらしたとき、出てきた一匹のシデむしを側で見ていた学識高い太っちょの神父さんが反射的に足の下にしてしまいました。私は「エーっ 神父さん、あれも神様が造ったんだよっ」と叫んだら「余分に造ったんでしょ」と私を見下ろしながら、こうも言いました。「だいたい地球上の生物の90%が、他の生物の餌になるんだよ。人間もその例外ではない。ウイルスや癌の餌だ」と。/生物の互いの餌にするという初めて耳にした『計りがたい神さまのやり方』に困惑圧倒された私でした。/しかし『他の餌になる』という亡き神父さんのこの解釈はその後、降誕祭を控える毎にキリストの生涯の黙想に、良いヒントを私に与えてくれています。/『飼い葉桶の幼子』は、牛や馬がご飯を食べる茶碗の中で「私をあなたの餌にしてください」と身を差し出し、十字架上の死で私たちの完全な餌(ご聖体)になってくださった主であり我が子の餌となって川をていく『タニシの殻』は、餌と食われてキリストの手の中で復活する世のお父さん、お母さんの姿なのです。/自分の命を生かそうと努める者は、それを失い、それを失う者は、かえって保つのである。(ルカ17・33)

 かつて秋日和のある日、ベランダの植木鉢をずらしたとき、出てきた一匹のシデむしを側で見ていた学識高い太っちょの神父さんが反射的に足の下にしてしまいました。私は「エーっ 神父さん、あれも神様が造ったんだよっ」と叫んだら「余分に造ったんでしょ」と私を見下ろしながら、こうも言いました。「だいたい地球上の生物の90%が、他の生物の餌になるんだよ。人間もその例外ではない。ウイルスや癌の餌だ」と。
 生物の互いの餌にするという初めて耳にした『計りがたい神さまのやり方』に困惑圧倒された私でした。
 しかし『他の餌になる』という亡き神父さんのこの解釈はその後、降誕祭を控える毎にキリストの生涯の黙想に、良いヒントを私に与えてくれています。
 『飼い葉桶の幼子』は、牛や馬がご飯を食べる茶碗の中で「私をあなたの餌にしてください」と身を差し出し、十字架上の死で私たちの完全な餌(ご聖体)になってくださった主であり我が子の餌となって川をていく『タニシの殻』は、餌と食われてキリストの手の中で復活する世のお父さん、お母さんの姿なのです。

 

自分の命を生かそうと努める者は、それを失い、それを失う者は、かえって保つのである。(ルカ17・33)

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